■『風邪っぴき』(茜編)■




響也の私室のドアの前に立ち、茜は控えめにノックをした。

現在扱っている事件の現場検証を先日のひどい雨の中、
強行したせいで、体調を崩している響也を見舞うためだ。

「………なんで返事しないのよ?…検事?ねぇ、牙流検事!…ちょっと響也君大丈夫なの!?」
プライベートの呼び方が出てしまっていることに気がつかないくらい、茜は動揺していた。

(もしかしたら、中で倒れているのかしら…)
じゃらじゃらした外見に誤解されることが多いが、響也は検事の仕事で手を抜くことはない。
多少の無茶をしてでも、真実を追求する。
実兄の事件以降、それはますます顕著になった。

「あけるわよ!」
茜が思い切ってドアを開けたが、室内はいつもと変わらなかった。
寝室には、先ほどまで部屋の主が使っていた形跡が残っていたが、肝心の主の姿はどこにもなかった。

「まさか…裁判に出て行ったの!?やっと熱も下がりかけてきたっていうのに…」


「ああああーーーーー!薬減ってない!!!お昼の分飲まずに出かけたの!???」


傍らにあった水のペットボトルと薬を持って、茜は部屋を後にした。


(まったく!!!馬鹿馬鹿!!!自分の身体を何だと思っているのよ?)
(どうやって説教してやろうかしら!)
(……まずは薬飲ませなきゃ…)


(…………心配かけさせないでよ…)


                             end                       




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